top of page

強制不妊手術違憲国賠訴訟

2020.3.21
社会福祉法人福岡ひかり福祉会理事会


強制不妊手術違憲国賠訴訟についての理事会声明


1.相模原事件に象徴される優生思想
 2016年7月26日に相模原市にある「津久井やまゆり園」で発生した殺傷事件から、3年半が経過しました。19人の仲間が亡くなり、26人の仲間・職員が重軽傷を負ったこの事件は社会に大きな衝撃を与えました。犯人は「障害者は安楽死させるべき。障害者を育てることは莫大なお金・時間を失う。障害者は税金の無駄」などとのべ、障害者が生きる事を全面的に否定する「優生思想」をあらわにしました。発生当時、社会全体に「優生思想」に対する批判的議論が巻き起こりましたが、時が経つにつれ低調となり、現在では裁判での量刑以外では話題になることも少なくなっています。こうして、人々の記憶が薄らいでいる状況に私達は大きな危惧を抱いています。
 この事件が甚大な犠牲の上で提起した「障害者が人としての尊厳と生存への権利を全面的に保有し、尊重される」という事を決して忘れてはならず、未来においても堅持されなければなりません。

2.人権を根底から否定する旧優生保護法による強制不妊手術
 一方、国家レベルでは戦前の「国民優生法」を引き継いだ「優生保護法」は「優生思想」を基本に「優性上の見地から不良な子孫の出生を防止する」(優生保護法第1条)とうたいました。これは、『個人の利益よりも社会の利益(民族の質)を優先し、生まれながらに心身に疾患がある者を「劣悪者」とし心身「健全」である者を「優秀者」とし、「劣悪者」とみなされる者を民族の退化と国家の弱体化をもたらすとして排除する考え』(1)でした。
 国は「優生保護法」の立法過程から周到な準備を重ね、法施行後は行政、司法、地方自治体、医療界、福祉界等が一体となり、主体的かつ強力に「強制不妊手術」を推し進めました。当時の法務省刑事局参事官は1952年の著作の中で障害者の生殖について「悪魔の饗宴・無節制無反省な繁殖・公共の福祉に対する重大な侵害行為」等と極めて強い差別をあおり、優生手術の推進を呼びかけています。
 その結果1949年から1996年の間に、全国で2万5千人以上(福岡県・518人、厚労省・都道府県等における旧優生保護法関係資料等の保管状況調査結果・平成31年3月1日付)に上る人達が、同意もなく、又は心ならずも優生手術を受けることになり、その惨禍は現在でも続いています。
 
3.福岡での旧優生保護法違憲国賠訴訟の開始
 被害者・関係者・多くの市民から「優生思想」にもとづく誤った施策に対し厳しい批判の声が上がりました。それでも国は真摯に誤りを認めることなく「優生手術は合法」と強弁しました。
 2018年1月30日、全国で初めて、仙台において国の全面的な謝罪と十分な賠償を求めた国家賠償法による賠償請求訴訟が仙台地方裁判所に提起されました。その後、全国で同様の訴訟が提起されています。
 この闘いの中で、ようやく2019年4月24日「旧優生保護法一時金支給法」が成立しました。しかし、被害実態に対する検証も、国としての明確な謝罪も無く、「救済金」も著しく低額であり、極めて不完全な法と言わざるを得ません。
 こうした中、ここ福岡でも2019年12月24日、2人の聴覚障害を持つ方が勇気と正義を持って提訴に踏み切り、人権への重大な侵害・不当な差別被害を告発しました。

4.強制不妊手術を福祉関係者も是認していた事への悔いと反省
 当会は1977年10月に無認可作業所として発足、1991年社会福祉法人認可を受け現在に至っています。この間、障害のある仲間達や、お年寄りの人権を最大限尊重し、「人間としてゆたかに生きるための諸権利の実現」を目指し活動してきました。しかし「強制不妊手術」問題には、多く関心を払わずに来ました。
 障害者福祉、高齢者福祉の少なからずの先達が、この問題の当事者として関わっていたという事実は、もちろん情報もほとんど無い中、十分知り得なかったことではありながらも大きな衝撃です。また、私達の意識の中に「当時は仕方がなかったこと」と消極的に是認してしまう傾向があったことも率直に認め、痛切な反省の意を表します。

5.当会の立場と訴訟支援の決意
 当会は2005年2月26日に「ひかりのめざすもの」を確定させ、以降、これを行動の指針として堅持してきました。その一環として、障害者運動や「安永健太さん事件」等、障害者の人権をめぐる闘いにも参加してきました。
当会は前述1から4の認識に立ち、「ひかりのめざすもの」の精神に照らし合わせ、今回の強制不妊手術違憲国賠訴訟を全面的に支持し、支援を展開することを表明します。

 

参考・ひかりのめざすもの
1.わたしたちは、憲法が保障した、人間としてゆたかに生きるための諸権利の実現をめざし、障害がある人達の働く場や

  生活の場づくりの事業と運動にとりくみます。また、ぼけのある高齢者が、一人の人間として個性と人格を尊重され、

  ゆたかに暮らすことをめざす事業と運動に取組みます。
2.わたしたちは、障害や認知症がある人たちが自らの人生の主人公として、その人なりの生き方や生き甲斐をつくりだし、

  誇りや尊厳を持って暮らし活動する実践をめざします。
3.わたしたちは、障害や認知症がある人たちとその家族の願いや要求をもとに、職員を含む関係者一人ひとりを大事にし

  た民主的な経営体の創造をめざし団結します。
4.わたしたちは、憲法が掲げる「基本的人権・平和・国民主権と民主主義」を守り発展させる立場から関係諸団体と連携し、

  地域に根ざした共同の活動や運動の発展をめざします。
5.わたしたちは、社会福祉の未来を切り拓くため、さまざまな科学や技術の成果を学び、集団の英知を結集した創造・変革

  の立場で活動することをめざします。

  (1)旧優生保護法違憲国家賠償請求事件訴状第3、2、(1)
  (2)当会では障害のある人を「仲間」と呼称している。
 

bottom of page